DNARと通常の治療と

皆さんはDNARという言葉を聞いたことがありますでしょうか?

ほとんどの方が知らない言葉かと思います。

 

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)

 

直訳すると「蘇生を試みないでください。」

となります。

これ、患者サイドからは、医療のことがわからず、判断できないけど、生前に延命治療はせんと本人が言ってたから、、、なんて声をよく聞きます。

 問題は医療者側も混乱?していることがあります。

 

たとえ話をしますと、

 

89歳 男性

日常生活のことは自力でできていた。

倒れているところを、連絡が取れず心配した家族が様子を見にいったところ発見され救急要請。近くの病院に搬送された。

来院時は意識レベルは痛み刺激で手が動く程度。血圧は145/84、脈拍数は72回/分

39度の発熱あり。

頭部CTにて脳幹部に広範囲な出血を認めた。手術適応はなく、救命できない可能性が高く、そこを乗り越えたとしても寝たきりや意識状態が回復しない可能性もありうる。

胸部レントゲンにて右肺野全体に肺炎像を認める。

 

家族は以前に本人より延命治療は拒否することを聞いている。

 

こんな場合は皆さんはどうでしょうか?

脳出血に対する治療、肺炎の治療は行わず、自然経過に任せる。

脳出血の治療は行う。肺炎の治療は行わない。

脳出血の治療、肺炎の治療とも行う。

 

医療者側も、脳幹出血で救命できても寝たきり、家族の負担、本人の意思等考慮すべきことは多く、どうバランスを取れば良いか毎回悩みます。

同じような症例はたくさん経験しますが、その都度家族と話し合って方針を決めます。

 

そこで医療者によっては、延命治療は拒否するとの意見を尊重するあまり、何もしないという事に陥る場合があります。つまり①を選択することです。

これは医療の放棄であり、絶対選んではいけない選択肢だと考えますが、時として医療現場では行われていると考えられます。

医療としての正解は

③出血の治療、肺炎の治療はしっかりと行うべきと考えます。

 

日本集中治療医学会の勧告でも

1.DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである。

とまず初めに提言がなされています。

 

  治療を行なったが、経過として心肺停止をした段階で初めて、蘇生を行うのか、行わないのかが問題となるべきです。

 

また

5.Partial DNAR指示は行うべきではない。

という提言にあるように

延命治療は胸骨圧迫(心臓マッサージ)、挿管、昇圧剤の使用全てを合わせてなされるもので、挿管はしないが、胸骨圧迫はしないなどの心肺蘇生の一部だけ行うことはナンセンスであり、救命行為にならない上に身体を無用に傷つける行為であることを肝に命じるべきと考えます。

 

患者の立場として、よき終末を迎えるためにも話し合うことは重要ですし、医療者側もDNARの意味を今一度しっかり見直す必要があると思います。

 

参考)https://www.jsicm.org/news-detail.html?id=7