抗がん剤について

PD-1阻害剤のノーベル賞受賞で日本中が沸いていますが、ここで簡単に抗がん剤のおさらいをしてみたいと思います。

 

超簡単な歴史

世界最初の抗がん剤は戦争によって生まれたと言われると驚かれると思います。

これは第1次世界大戦後に開発された毒ガスであるナイトロジェンマスタードの作用を研究することで、悪性リンパ腫に対して効果があることが確認され、その後毒性を弱めた各種のアルキル化剤と言われる種類の抗がん剤が開発されていったのです。いかに人を殺すかの研究の結果、腫瘍から人々を救う薬が開発されたことはなんとも皮肉なことです。しかし、これらの開発によって、それまで放射線や外科的治療しかなかった世界に、新たな可能性の扉を開いたといっても過言ではありません。

 

ちなみに脳外科で世界標準の抗悪性腫瘍薬であるテモゾロミド(商品名:テモダール)もこのアルキル化剤の一種です。

 

以下は大きなくくりで薬物治療の中でどのような種類があるのか作用機序的の観点から分類してみます。

 

薬物治療はその標的によって①化学療法、②分子標的薬、③ホルモン療法、④免疫療法の4つに分けられます。以下でそれぞれについてざっと見てみましょう。

 

①化学療法

これは冒頭であった古典的な作用機序の治療法です。

これらの薬は細胞そのものの代謝や分裂を邪魔することで、細胞を殺したり、増殖ができなくなるようにする作用があります。

 一種類だけではこれらの作用の力は弱くとも複数を合わせることで絶大な威力を発揮するため、世界中でどういった組み合わせがいいのかその作用機序から盛んに組み合わせが研究されていました。ただ現在では各ガイドラインをご覧いただけるとわかるのですが、どの腫瘍かや進行度、本人の体力等でどのようなメニューで行くかは大体決まっています。でも廃れたメニューが再脚光を浴びるなどまだまだ改善の余地は残っている領域ではあります。

 問題点はがん細胞、正常な細胞を区別できる治療法ではないので正常な細胞も殺してしまいます。このため脱毛や骨髄抑制といった副作用があります。あとは嘔気、嘔吐、便秘等はよく起こる副作用です。対症療法も進化しておりこれら副作用はだいぶ抑えられるようにはなりつつありますが、なかなか手強く制圧というほどには至っていません。患者様のQOL(Quality of Life)低下の原因ともなりますので、ここら辺をどのようにコントロールするかは私たちの腕の見せ所かもしれません。

 

②分子標的薬

分子標的薬は字のごとくですけど、(がんの増殖に必要な)分子を標的(とする)薬です。

 このため正常な細胞への影響が少ないとされていますが、それぞれの標的によって特徴的な副作用があります。

 がんの増殖に必要な分子の代表的なものに上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)があります。これはがん細胞表面に存在するEGFRが常に活性化した状態で、細胞増殖が盛んに行われてしまいます。この活性化を抑えることで増殖を抑制しようというのがこの治療薬のコンセプトです。

そのほか、

乳がん:HER2(ハーツー)やCDK4/6(シーディーケーフォーシックス)

非小細胞癌:ALK(アルク)やROS1(ロスワン)

腎細胞癌:mTOR(エムトール)

T細胞性リンパ腫:CCR4(シーシーアール)

慢性骨髄性白血病など:BCR-Abl(ビーシーアールエイブル

大腸癌、脳腫瘍など:VEGF(ブイイージーエフ)

といった分子標的があります。あえて細かいことは省き代表的なことのみの記載ですので、詳細は各ガイドライン等を参考にしてください。

 

ホルモン療法

 体内では日々細胞が生命活動を担っていますがこれを調整してる重要なものにホルモンという物質があります。がん細胞ももちろんこのホルモンの影響は受けます。この中でがん細胞が増殖する方向に影響を及ぼすホルモンが厄介なわけです。そこでホルモンの作用を抑えることで、がんの増殖を防ごうというのがこの薬剤のコンセプトです。主に、乳がんや子宮体がん、前立腺がんなどの治療に用いられます。

たとえば、乳がんではエストロゲンプロゲステロンというホルモンががん細胞の増殖に影響を及ぼしていることがわかっています。 乳がんではがん組織の一部を調べるときにこのホルモンと先ほど紹介したHRE2を調べます。もしもこれらの受容体が腫瘍細胞に認められれば、ホルモン剤によって腫瘍の増殖が抑えられるのですから、私たちの武器が増えることとなります。

副作用ではそれぞれのホルモンに準じた副作用が起こり得ます。例えば乳がんではほてりや発汗などの更年期障害のような症状が代表的です。

 

免疫療法

がんの治療法として、今最も注目されているのが免疫療法です。

 がん細胞といえど異常な細胞は、免疫細胞には本来殺されてしまうのです。しかしながら免疫機能に働きかけることで自分を攻撃できないようにすることができるわけです。どういう風にするかというと、がん細胞はPD-L1免という分子を免疫の番人であるT細胞の PD-1にくっつけます。そうするとT細胞はこのがん細胞はやっつけちゃいけないと認識してしまい。がん細胞は安心してどんどん増殖していきます。これが腫瘍が増殖してしまうメカニズムですが、ここに目をつけて、腫瘍のPD-L1がT細胞のPD-1にくっつくのを阻害することによって、がん細胞を異物と認識し攻撃力を回復させる治療として研究開発されました。これは2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞した研究から開発されました。

 今後はこの免疫に頼った治療薬の開発が盛んになるでしょう。

 

※ここで注意していただきたいのが、これらは全て保険承認された治療法であるということです。

保険承認されていないがんワクチン等の治療法と間違わないようにしてください。

※保険承認されていようといまいと、効果があるかないかは人によって違います。

※保健承認されていないからといって否定しませんが、藁をもすがる患者様を食い物にする業者が潜みやすいので気をつけるべきです。